好きになんてならない

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無事に和菓子屋で柚子最中を買って店先で別れようと挨拶した。 それなのに、彼は私と同じ方向に向かって歩き出した。 どうやら彼の家は私と同じ方向らしい。 また仕方なく一緒に歩く。 商店街は昼間や夕方と違って人通りもほとんどなく閑散としている。 二人きりにされたようで、こうして一緒に歩くのはなんだかとても居心地が悪い。 「弥生さんと僕、食べ物の好みが合うのかな。また食事に誘ってもいいですか?」 定食屋で断ったのに彼は打たれ強いのか、またそんなことを言う。 よりによって三十過ぎの地味な私じゃなくたって、若くて見た目もいい彼なら食事に誘う相手くらい他にいくらでもいるだろうに。 「…なんで私なんですか?他にいくらでも若くてかわいい子がいるでしょう?」 私がそう言うと、彼は意外そうな顔をした。 「なんでって…僕は弥生さんがいいんですよ。」 その理由が知りたいのに、そんなにさらっと言われても。
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