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途端に現実に引き戻された頭と体はその熱を失い、彼の体をありったけの力で押し返した。
「絶対しません!!」
「そうですか?僕はもっとしたかったのに、残念だな。」
こんな手の早い男と付き合うなんて冗談じゃない。
やっぱり私は好きな人とだけ触れ合いたい。
彼の腕の中で目を閉じると、もう二度と私に触れることはない優しかった手を思い出してしまった自分が情けなかった。
「…前にも言ったけど…急にこういうことするの、もうやめてください。」
「急にじゃなければいいんですか?」
「そういう意味じゃなくて…。」
もうため息しか出ない。
「今日から弥生さんは僕の彼女で、婚約者ですからね?」
「…ふざけてるんですか?」
「ふざけてなんかいませんよ。もちろん本気です。」
本気の意味、わかってんのかな?
少なくとも私は彼の言葉を本気にしたりはしないんだけど。
「お腹空きましたね。そろそろ出掛けませんか?」
彼は何事もなかったように無邪気に笑った。
──この男は謎だらけだ。
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