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私の家族は、父母と、弟が一人。特別波乱万丈な道を歩んだわけでは無いと思うけれど、それは私から見ての話よね。父は公務員で働いてて大変なこともあっただろうし、母だって、私や弟にいっつも叱ってたけど、いっつも早起きしてお弁当作ってくれた。中学校の時、弟がクラスでいじめられてて学校行きたくないって言ったけど、母は必死に励ましてたな。たまに父が、私達の行きたい所も連れてってくれたし。休日くらい、休みたいはずなのに。そうやって、私も弟も一応立派って言えるくらいには育ったと思っている。弟は大学に行ってるけど、今は友達がたくさんいる。私は普通の会社員だけど、やりがいあるし、そこそこ充実してるのかな。やっぱり、この記憶が消えちゃうのは悲しいな。
「そっか。やっぱり家族って良いよね。ねぇねぇ、もっと話聞かせてよ。お姉さんのこと、家族のこと、くだらないことも、悲しいことも、楽しいことも」
聞き上手な彼に乗せられて、私は沢山のことを話した。父が自分のいびきに驚いて起きたこと、母がたまに不思議な寝言を言うこと。弟が休日の半日くらい金縛りに合ってしまったこと。って寝てばっかりやないか。彼には当然つっこまれた。他にも色々話した。色々……。
話してたら過ぎるのはあっと言う間なんだな。数十メートル先、大きなトンネルの先に真っ白な光が差した。おかげで彼の姿がくっきりと見える。真っ白で明るすぎて先なんて見えないけれど、それでも良い。早く抜けよう! と、彼に言った。
「……案外短かったな」
え? 小さな声だったけど、何となく嫌そうな雰囲気は伝わった。暗い中、ずっと彼の声だけが頼りだったから。すぐに分かった。少し寂しそうに先を見つめる彼の手を握り、行きましょ? と、彼を引っ張って歩く。
「お姉さん、ごめんね」
彼を掴んでいた手をそのまま引っ張られ、彼と私の体がピタリとくっついた。何だろう、コレ。何で抱きしめられてるの? そう思ったすぐ後、背中に激しい痛みを感じた。力が抜けていく体を、倒れない様に彼がギュッと抱きしめる。この痛み……何か刺されたのだろうか。腰が生温かい。
遠のく意識の中、彼の言葉だけは耳が捉えた。
「まだまだ、聞きたいことが沢山あるんだ」
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