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気がつくと、私は始めの場所に戻っていた。不思議なことに……嫌なことに? 記憶がある。ぼんやりした記憶は勿論のこと、あの彼とのことも……。
「すみません」
耳にタコが出来そうな程聞いた声。振り返ると、彼はいた。
あの、どうして私は此処にいるんでしょうか。さっき、刺しませんでした?
動揺している所為で、物凄い直球に聞いてしまった。彼はイタズラっぽく笑って見せる。
「はい、刺しました。それはそうと、一緒にトンネルへ入りましょう?」
それはそうと……あまりにも信用出来なくて怖い。この場所も怖いし、唯一の心の支えの彼まで怖いだなんて。もう痛い思いだってしたくない。
「僕、お姉さんと話したいこといっぱいあるんです」
聞いてるだけじゃない。自分のことなんて、濁すばかりで全然教えてくれないくせに。私は此処にいますと答えた。
「一緒に行きましょうよ。此処にいたって、どうせ誰も助けに来てくれませんよ?」
何でそんなことが分かるのよ。思わせぶりな言い方して。彼は一体何者なのだろうか。その後も、しつこい彼の誘いに断固拒否し続けた。
「……そう。じゃあ其処で一生一人でいると良いよ」
彼は酷く冷たい声でトンネルの中へと消えていった。
それから何時間経ったのだろう。腕時計の針は止まったまま。でも、腹時計は正直なようで。何度もお腹が鳴る。お腹って、空きすぎると気持ち悪くなるんだな。力も抜けていく。私はその場に横になり、静かに目を閉じた。
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