7人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
1
街行く人がマフラーやコートを脱ぎ始める春の初旬に、新岩路駅南口ショッピングモールの外れにある地下のカジノで銃声がする。
犯罪都市新岩路では銃撃戦は珍しくない。
だが、非合法カジノ内で銃声は希だ。
騒ぐ客の中で、腹から血を流している男がいた。
黒のトレンチコートを着た彫りの深い無骨な男が患部を押さえ介抱する。
「おい!リャン、しっかりしろ」
「……ユンファ…う、裏切り者に殺られた」リャンは言い終わると共に息を引き取る。
「くそ」
舌打ちをし、ユンファは店を出る。
組の幹部タオに連絡する。
「俺だユンファだ、モール外れの裏カジノで、リャンが銃で殺られた」
「……殺ったのは?」
タオの声が低くなる。
いつも笑っている彼とは趣を異にする。
「わからない」
「わかった。検死や葬儀の手配は俺が取り仕切る、お前はラウと一緒にリャンを殺った奴を特定しろ」
「おれらに影響がなさそうな相手だったら、殺ってもいいか?」
「お前ならその塩梅、わかるだろ」タオは素っ気なく返す。
「わかった」通話を終え、ユンファは弟分のラウをカジノ近くの喫茶店に呼び出す。
喫茶店内は、30年の歴史を感じるような白髪白髭のマスターが観葉植物に水をやっている。
喫茶店内に待つ事10分、スポーツ刈りの男がやってきた。
「兄貴遅れてすまねえ」ラウがユンファに謝る。
「別に構わねえよ。メール見たんだろ」
「はい。リャンさんの仇、きっちり見つけて殺りましょう」
「でだ、ラウ。俺にはちっと心当たりがある」
「本当ですか。さすが兄貴だ」
「さすがってなんだよ」
ユンファは悪態をつく。
「ただよお、」ユンファがラウに耳打ちする。「そいつは俺らのファミリーの人間なんだよ」
「え!!」今はテーブルを掃除していたマスターの手が止まる。
最初のコメントを投稿しよう!