一章

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「おう、ユンファ」 「フェイロンさん、リーアはどこにいる?」  「あいつなら、喫煙室なんじゃないか」 ユンファは喫煙室の中に入り、自然にセブンスターを吸う。 ユンファに挨拶し、喫煙室内で吸っていたリーアは窓から室外の景色を眺めている。 「リーア、調子はどうだ?」不審に思われないよう、ごく自然に距離を近づける。 「なんですか、ユンファさん。いきなり」 「いや、ちょっとおまえのキャビン吸いたくて。くれるか?」 「いいですよ」 リーアがキャビンを渡そうとした時、ユンファはすばやくリーアの胸倉を掴み、壁にたたきつける。 「おい!リーア、リャンが死んだ時お前カジノにいたろ、俺は見てんだぞ!?ファミリーの武器と薬物横流ししてるのは調べがついてんだ」 カジノの件はカマをかけただけだった。 リーアは見ていない。 ユンファからの拘束を、蹴りで解いたリーアはドアを蹴破り、リーファミリーが騒然とする中、事務所から逃げ出す。 「おい、そいつを捕まえろ!!リャンを殺した奴だ」 ユンファの張り上げた声と同時に銃声が事務所内で重なり響き渡る。  事務所外の階段手前通路に、リーアがうつ伏せになっていた。 後頭部から血と脳漿、数発喰らった背中から大量の血が流れ出ている。 リーアの方向から振り返ると、ロシア製正規品トカレフを持って震えているラウが呆然と突っ立っていた。 「……リーアさん撃っちまった」顔面蒼白したままラウは呟く。 リーアは死んでいた。   リーアの鞄や財布に不審な物がないかユンファが確認し、ラウは放っておく。 財布の中は古びたカラー写真がしまってあり、家族の笑顔が写っていた。 母親、父親、姉、リーア、弟、ペットの犬を見て、ユンファはなんとも言えない気持ちになる。 彼の鞄を床に吐き出す。 鞄には、ある連絡先と薬物の仕入れ値と横流しの取引記録が書かれたメモ帳を発見する。 「どうしたんだ、ユンファ!」血相をかえたフェイロンが駆け寄る。 「こいつ、裏切り者だったんだ」 「おい、説明しろ」 フェイロンや他の構成員にも事情を説明した。 それに、まだ終わっちゃいない。 ユンファは藤堂組の幹部で「胎生(ファイファン)」候補小津の連絡が書かれたメモ帳を握りしめる。
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