策士と手を組みました。

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私の彼氏が、友達と浮気していた。 その光景を目撃したとき、あなたならどうする? 泣きながら走り去る? それとも2人の間に割って入って詰め寄る? 私の場合は― 「…そっか。」 前方を見つめながら、そう小さく唇を動かす。 一人歩いていた帰り道で、時が止まったように立ちすくむのは私。 見間違えるわけがない、よく見知った二人が手を繋いで歩く、仲睦まじげな後ろ姿。男子の方は私の彼氏で、女子の方は私の友達。 今は感傷だとか、余計な感情はいらない。 ポケットから取り出したのは、現代人の武器。目の高さに掲げたスマホは、自分を護るための盾か、それとも切り札として攻勢に転じるための矛か。 ゆらゆらとぼやけるピントが合うまでの時を待つ。 間の抜けたシャッター音は街の雑音の中に溶けて、私以外の誰の耳にも届かない。 確かに写真を撮影し終えた後、スマホを持っている手は、重力に抗うことを諦めてだらりと垂れる。 そして、二人が振り向いて私の存在に気づく前に…目の奥から熱いものが押し出される前に踵を返した。
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