生まれる前から背負った物語

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 ある日の午後、 シロが突然消えた。  リリは心配して探し回ったが見付からなかった。 「なに、 心配ないよ、 シロはもう大人なんだから、 鹿でも狩に行ったんじゃないか」  セイが言った。  実際、 狼の行動範囲はびっくりするほど広大だった。 一晩で数十キロ、 それ以上行動する。  タフな長距離ランナーだった。  リリもそれは理解していた。  しかしシロが見えないと淋しくて仕方ないのだ。     その日の深夜、 シロが帰って来た。  口に布切れを咥えていた。  フサが布を手に取った。 「すごい高級な生地だね、 模様も、 村の人が着るものじゃないよこれは、 もしかして・・・」  フサは黙った。
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