生まれる前から背負った物語

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 そしてセイの着物を噛み千切りきびすを返した。  姿が見えなくなった所でシロの遠吠えが村中に響いた。  ながく、 悲しい遠吠えだった。  源氏の武将はセイの遺体の横に立て札を立てた。 「この者、 平氏を匿った罪で処刑された、 家族、 一族も同等の罪に値するものである」  正太郎はシロの後肢に刺さった矢を抜き取り、 わずかに持っていた薬を付けた。  リリは貴重な熊の肝を食べさせた。  シロの回復は早かった、 想像を絶する自然の世界で生きる狼の体力、 生命力は計り知れなかった。  しかし、 こういう動物は諦めも早い、 自分がダメだと思うと覚悟する。
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