2.テッドの選択

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 ジョフリーはテッドの話を聞いてとても驚いた。自分のマネージャーに志願する者は大勢いるのだ。それを自分から辞めようというのだから、とても理解できなかった。アニタという女性の側にいたいと聞いても、なお彼は信じられないといった風に尋ねた。 「テッド、君は優秀なマネージャーなのに、女の子の夢のために不本意に今の仕事を辞めて、ニューヨークで職探しをするというのかい?」 「はい。僕も随分悩みました。マネージャーの仕事はとてもやりがいがありましたから。母にもよくしていただいて、親子でハワード家の方々には深く感謝しています。でも僕は、アニタがいない人生はもう考えられないんです。今以上の仕事は、この先見つからないでしょう。それでも僕は彼女と一緒に生きていきたいのです」  テッドの決意が固いことを見たジョフリーは、仕方なさそうに頷いた。 「そうか…。厳しい生き方に敢えて飛び込むのは、若いほどいいかもしれないな。ニューヨークで、お母さんを自分の側に呼べるほどの仕事が見つかるといいね。勤勉なお母さんにはここでずっと働いてもらいたいが、お母さんも年を取れば仕事がどんどんきつく感じるようになるだろう。君がここまで成長できたのは、お母さんが陰で支えてくれていたからだということを忘れてはいけないよ。それを胸に刻んでおけば、都会の悪癖に染まらずにすむだろう。私のコンサートが近くであるときは、アニタさんと二人で来てくれ、必ず席をとっておくから。今まで忠実に責任を持って私の世話をしてくれてありがとう、テッド。君達の幸運を祈っているよ」  ジョフリーは笑顔でテッドに手を差し出した。 「ありがとうございます!」  テッドは目を潤ませながら、ジョフリーの長くて繊細な手をしっかりと握った。
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