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二人は家族の祝福を受けて、ニューヨークに旅立った。テッドが二十一、アニタが十九の時だった。
二人は、ニューヨーク郊外の小さなアパートの部屋を借りた。テッドはその日から仕事を探し、アニタはダンスのレッスン教室を探した。
まもなくテッドは、中古楽器の販売店の店員の職を見つけた。が、それだけではあまり稼げなかった。それで夜はホテルの駐車場係の仕事をした。帰宅は明け方で、体はくたくただったが、アニタが待つアパートに帰ると思うと彼は幸せだった。
アニタは夜遅くまで猛レッスンをして、一日もレッスンを欠かさなかった。レッスンが休みの日でも、ジョギングやストレッチをし鍛錬を怠らなかった。
ラジオから流れる音楽に合わせて、テッドに即興のダンスを披露することもあった。通りや公園で気軽に踊っている若者達を見つけると、自分も飛び入りで参加して踊ることもあった。アニタは全身全霊をダンスに打ち込んでいた。
テッドとアニタはお互いの絆を信じていた。二人とも疲れ果て、一言も口がきけない日や、食事をとる気力さえない日があっても、掃除や洗濯が疎(おろそ)かになって部屋が汚れちらかっても、二人の瞳の輝きだけは消えなかった。
アニタの夢はブロードウェイでの活躍だったが、やはり才能ある人々がこぞって挑戦する場の壁は、たやすく越えられるものではなかった。
アニタはレッスンを続けながら、様々なダンスのオーディションを受けた。大半は落ちていたが、そのうち、時々オフブロードウェイの小劇場で踊ることができるようになった。
大きな夢には届いていなかったが、アニタは小劇場であろうと、その他大勢のバックダンサーであろうと、観客の前で踊れることが嬉しかった。踊っている彼女はいつも生き生きしていた。テッドが彼女のダンスを観に行った日には、いつにもましてその瞳は輝いた。
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