1人が本棚に入れています
本棚に追加
そんなたゆまぬ努力が実って、初めて小劇場のメインダンサーに選ばれた時、アニタは帰宅したテッドに抱きつき、涙声で報告した。
「私、とうとうメインで踊れるの! ありがとう、テッド! あなたの支えがなかったら、到底ここまで来れなかったわ!」
「まさか! 君の努力と実力だ」テッドは笑って言ったが、アニタは首を横に振った。
「私ね、こっちに来てからダンスの先生に言われたの。メインのダンサーに選ばれるには身長が少しだけ足りないって。私が選ばれるとしたら、足りない分の身長を感じさせないほどの大きな動きや、高いジャンプが必要なんだって。それは人一倍鍛錬することだって言われたわ」
「それなら尚更、メインに選ばれたのはすごいことじゃないか!」
「ええ、でも今回はメインの女の子が怪我したから、その代役なの。これが『最初で最後のメイン』かもしれないわ」
『アニタにしては弱気だなあ…待ちにまったメインなのに?』とテッドは不思議に思った。
アニタは今までダンスで手を抜いたことはない。素人でも彼女に実力があるのはわかる。ダンスのセンスもいい。あとは運をつかめるよう挑戦を諦めないことだ。テッドはいつもそう思っていた。
アニタは物憂い様子で俯いていた。
「テッド、ニューヨークに来たら、私のようなダンサーは沢山いるってわかってた。私より才能がある人達がひしめきあってるのもね。だけど私、挑戦もしないで自分の夢を諦められなかったの。あなたを犠牲にしても…トップを目指したかったの。でも私はここに来て数年も経つのに、まだブロードウェイの入り口にも立ってない…。それでも私は続けたいの。あなたが疲労困憊して帰宅する日々を送っているのに…。こんなに自分勝手な私の傍に、あなたはどうしていてくれるの? 嫌気がさして逃げたくならないの? そうしてもいいのよ」
最初のコメントを投稿しよう!