1.テッドとアニタの出会い

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 テッドは高校を卒業するまでは、生まれも育ちもサンフランシスコの港町で、そこを出たことはなかった。テッドは自分を自他ともに認める田舎者だと思っていたが、そんなことはさほど気にならなかった。  テッドは地元が大好きだったからである。急な坂やケーブルカー、漁船やヨットが浮かぶ港町、美しい海と海岸線…観光名所として有名な場所はもちろん、そうでないありふれた風景さえもテッドはとても気に入っていた。  高校を卒業した時、テッドはそれまでの自分を振り返って、まあまあ自分は幸せな学生時代を送れたのではないかと思った。  四歳の時から父親がいなくて、母親が住み込みのメイドで忙しく働いていたから、よくも悪くもテッドは放置されていたようなものだった。  だが父親が行方不明になってまもなく、テッドは若きプロ・ピアニストのハワード氏の邸宅の離れに、母親と一緒に住むことができた。そして本宅から漏れ聞こえてくる音楽の影響で、彼は楽器演奏に興味を持つようになった。  テッドは小学生の頃には母親のキャレンに中古のキーボードをねだるようになり、しばらくして買ってもらった古ぼけたキーボードを熱心に叩きはじめた。その内、自己流でごく簡単なピアノ曲が弾けるようになった。  テッドは高校を卒業するまで、音楽好きな友人達と様々な古ぼけた楽器を持ち寄っては、公園や小さな催し物会場などで、流行りのポップな曲を演奏して楽しんだ。
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