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アニタはテッドの励ましもあり、二週間、見事にメインの代役を果たし喝采を浴びた。小さな劇場だったが、アニタにとっては素晴らしい日々だった。
テッドも一度観に行ったが、スポットライトを浴びて踊るアニタはとても美しかった。力強い動き、高いジャンプ、男性のダンサーがアニタをリフトするとき、自らも跳んで高い位置へと上がっていく。相手の身体を支柱にしてくるくる回りながら下りてくるのも、開脚から素早く立ち上がって、何度も高い跳躍(ちょうやく)をするのも、素人には軽々としているように見えるが、大変な努力の賜物なのだ。ダンスが終わった時にはテッドは立ち上がり、誰よりも大きく手を叩いて彼女を讃(たた)えた。
その後のアニタは、また小劇場のバックダンサーにしか選ばれなくなったが、諦めずにオーディションを受け続けた。
しかし二十五歳のとき、思わぬ状況がアニタに降りかかった。アニタは足首に何度目かの捻挫をした。
人一倍高く、人一倍大きく、そのための猛レッスンと舞台での踊りは、彼女の華奢な足首を酷使することになっていた。
アニタがかかりつけの病院に診察に行くと、医師は難しい顔をして、しばらくカルテとレントゲンの写真を交互に見ていた。
「ダンスをされているそうで、お知らせするのは非常に残念ですが、今回の捻挫が治っても、これ以上無理をしていると歩行困難になるかもしれません。手術をしても激しい動きのダンスを続けるのは無理でしょう。念のため他の病院で診察してもらって構いません。おそらく同じことを言われるでしょうが…」と医師は気の毒そうに告げた。
その日、アニタは長い間、病院の近くを流れる川のほとりに立って、水の流れを眺めていた。あとからあとから涙が浮かび、頬を伝って流れ落ちた。彼女はただただ静かに涙を流し続けていた。
何時間、そうして川辺に佇んでいただろうか、やがて彼女は涙を拭(ぬぐ)って、決心したように歩き始めた。
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