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その一週間後、いつものように明け方近くに帰宅したテッドは、ドアを開けると目を見張った。部屋の中がきれいに片付いており、キッチンのほうからは美味しそうな匂いがしていた。エプロンをつけたアニタが笑顔で彼を迎えた。
「今日は何か特別な日だった?」テッドが尋ねると、
「ええ、私があなたに結婚を申し込む日よ」アニタがウィンクして答えた。
「どういうこと?」テッドは驚いて尋ねた。
「私ね、足首を捻挫したの。で、かかりつけの病院で診察してもらったのよ。他にも十くらい病院を回ったわ。でもどのお医者さんにも言われたの。私の足は、これ以上無理をすると歩けなくなるかもしれないって」
テッドは息を飲んで彼女の足首を見た。テッドはアニタの胸中を想い、その顔には苦痛の表情が浮かんだ。アニタは、テッドの顔を両手で挟んで自分の方に向けた。
「そんな顔しないで、テッド。私の足ね、まだもう少しはダンスをさせてくれると思うの。私、随分迷った…。あなたがここまで身を犠牲にして支えてくれたんだもの、例え足が潰れたってダンスを続けるべきだと、それが正しいことに思えたわ」
アニタは頭をテッドの胸にうずめた。明るい声を出していたが、やはり相当辛いのだ。テッドはアニタをそっと抱きしめた。
「それでもね、歩行が困難になってからダンスをやめるより、今やめて、これからあなたとごく当たり前の夫婦生活をしたいと…あなたが許してくれるなら、そうしたいと心の底から思ったの。私は今まであなたのおかげで全身全霊でダンスに打ち込めた、だから今は何の悔いもないわ。私は新たに仕事を探して働いて、あなたが夜、働かなくていいようにしたい。あなたの疲労が激しいのもわかっているし、これからはもっと二人が一緒に楽しめる時間を増やしたいの。貯金もしたいし…二人で沢山の良い思い出を作っていきたいの。そうしちゃだめかしら?」アニタは顔を上げてテッドを真っすぐ見つめた。
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