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けれどテッドは高校卒業後、音楽学校には進まなかった。経済的に自分が音楽教師のレッスンを受ける余裕がないこと、音楽大学に行くのも難しいこと、いや例えそれらが可能であっても、才能の面において自分はアマチュアの域を出ないとテッドはよくわかっていた。
プロの演奏家の音色がどんなものか、子どもの時から知りすぎていたからである。
テッドは高校卒業後、母の雇い主ジョフリー・ハワード氏から話を持ちかけられ、彼のマネージャーの仕事を始めた。ジョフリーは、メイドの息子のテッドが音楽を愛していることに気づいており、陰ながら微笑ましく思っていたのだ。ジョフリーはピアニストとして有名になっても、それを鼻にかけることはなく、周囲の者達に気を配る面倒見のいい人物だった。
マネージャーとして働くようになってから、テッドはジョフリーの演奏会にも随行し、アメリカの各地を回った。サンフランシスコから出たことのないテッドにとって、正に画期的な日々が始まった。テッドは真面目によく働いたので、ジョフリーにはとても気に入られていた。
そして旅先のテキサスで、テッドはヒスパニック系の明るい娘、アニタと出会った。
ある日、ジョフリーから自由時間をもらって、テッドは知らない町を適当にぶらぶら散歩し、休憩しようとカフェに入った。
陽気なカントリーミュージックが店内に流れる中、注文を聞きにきたのは、笑うとえくぼができる可愛いウェイトレだった。店のロゴマーク入りのTシャツを着て、デニムのミニスカートをはき、ウェスタンブーツをはいた彼女は、名札にアニタと書かれてあった。
それとなく見ていると、彼女はポニーテールを陽気に揺らしながら、踊るように軽やかに席を回り、笑顔で客に応対していた。時には冗談を言い、チップを多くはずんでくれた客には、茶目っ気たっぷりにウィンクして礼を言っていた。
テッドは自分と似た黒髪や茶色の瞳も気に入り、褐色の肌もエキゾチックに魅力的に感じた。
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