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次の日の夕方、コンサートの会場前で待ち合わせをして、テッドは約束通り、おしゃれをしたアニタを舞台袖に連れて行った。そこにはちゃんと二人分の椅子が用意してあった。客席からは見えない特別の指定席だった。
アニタはウェーブしている黒髪を背中に垂らし、真珠のイヤリングとネックレスをつけ、クリーム色のワンピースを着ていた。目と口が大きめの彼女は、目元と唇に濃い色をつけるだけで、きりっと引き立つ顔になっていた。ワンピースに合わせてクリーム色のポーチを持ち、ハイヒールも同色だった。彼女は高いヒールでも優雅に軽やかに歩いた。
『ジョフリーさんの演奏が目当てでオシャレをしているのはわかってるけど、それでも連れの女性が装いに気を遣ってくれるのは嬉しいものだな…』
テッドはアニタに感嘆の眼差しを何度も向けた。そして、うっとりしてピアノ演奏に聴き入るアニタを嬉しそうに見ながら、自分もピアノの美しい調べを楽しんだ。
コンサートが終わって、アニタに感謝のハグをしてもらったテッドは、気を静めるのが大変だったが、彼女のためにタクシーを呼んで気持ちよく別れた。
彼はテキサスを離れる前にまたカフェに行き、短い間だがアニタと話をした。
そのときアニタは、憧れのニューヨークへ行く旅費と当面の生活費、ダンス教室の高いレッスン料を稼ぐためにカフェで働いていると話してくれた。
二人は再会を約束し、笑顔で別れた。
こうして二人の交流が始まった。離れているときは、ちょくちょくメールや電話のやりとりをし、テッドはアニタの住む町の近くに行くことがあれば、必ず彼女に会いに行った。彼は会う度にアニタの明るさと笑顔にとても癒され、彼女なしの人生は考えられなくなっていた。
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