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だがアニタの夢は一流のモダンダンサーとなって、ニューヨークの舞台で踊ることだった。この先もジョフリーのお供をして各地を転々とするテッドが、アニタと恋人同士になることはとても難しかった。
テッドはそのことについて考え始めた。母のいるサンフランシスコに戻ると、休みの日には港のほうに散歩に行って、カモメとヨットと海を見ながら、アニタとの未来を得るにはどうすればいいか考えた。
テッドの父エイダンは貨物船に乗っていて、年に四、五回しか家に戻らなかった。そして行方不明になってしまった。母キャレンは、そのためにとても苦労した。両親の二の舞は絶対にしたくなかった。自分は愛する人の傍にいたかった。
テッドは、ジョフリーのマネージャーを辞め、ニューヨークで仕事を探そうと思うようになった。
ある日、それを母親に相談した。キャレンは仕事で疲れた顔をしていたが話をよく聞いてくれた。
「テッド、今、聞いた話は、普通の親ならバカだと言って止めると思うわ。私の両親もそうだったの。私の両親はお前のお父さんとの結婚に大反対したから、私は家出同然でお父さんと結婚したのよ。両親も少しは正しかったかしらね? 親に逆らってまで結婚したのに、その夫が行方不明になるなんてね…。だから私は自分の両親には何の連絡もとっていないわ。お父さんのほうのご両親は、お父さんが中学生頃に離婚したそうよ。それでお父さんは早くに自立して家を出たから、お父さん自身も自分の両親と疎遠になっていたし、ご両親と会ったこともない私の口から『あなた方の息子さんは突然消えました』なんて、とても言えないし…ああ、話が横道にそれたわね」
キャレンは長い溜息をついた。
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