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「テッド、お前の場合は、私にはもっと反対材料がいろいろあるよ。ジョフリーさんはピアノに没頭すると気難しくなるけど、私達親子にとてもよくして下さったし、今は彼の元でお前は高給をもらって働いてる。お前は雇い主にもその奥様にも気に入られている。しかもお前が大好きな音楽に関わる仕事をしているのに、その仕事を手放すなんてバカとしか思えないよ」
キャレンは一人息子をじっと見つめた。近くで見ると、それほど息子と父親は似ていなかったが、目と髪の色が同じで顔の角ばった輪郭が似ていることから、キャレンはテッドを見ると、夫エイダンを見ているような気がしていた。
その息子が大人になって自分の手を離れようとしている…。キャレンは顔には出さなかったが、内心、とても寂しかった。が、彼女は自分の信念を曲げなかった。
子どもは親の操り人形ではない。巣立ちを迎えたなら、喜んで送り出してあげるべきだ。キャレンはテッドに微笑んだ。
「けれど、お前の人生はお前のもの。お父さんと私がそうしたように、自分が本当にやりたいことをやりなさい。アニタさんとよく話し合って、二人にとって最善の選択ができるようにしなさいね」
テッドは母親に感謝し、ジョフリーにもことの次第を打ち明け、マネージャーの仕事を辞めたいと申し出た。テッドの心はもう決まっていたのだ。
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