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二つで結んだ真っ黒な髪。 動く指先を見るための視界には時折セーラー服のリボンまでもが入る。 お洒落にも恋にも興味がなかったあたしは中学生になっても、毎日ピアノを弾いていた。 あたしが知りたかったのは、音楽の世界。だたそれだけだった。 「御飯よ~」 遠い記憶の中でお母さんの声がする。 「今日はお父さんもいるよ~。早く降りてらっしゃーい」 あぁ、聞こえるけど。聞きたくない。 まだこの世界から戻りたくない。 あたしはまだ、音の世界にいたいんだ……。 あたしはそう思いながらピアノを弾き続けていた。 思う存分弾けるのは、平日の夕方と休日くらいだ。それ以外は、音を出すことは近所迷惑だから許されない。 休日になると部屋にこもってピアノばかり弾いていたあたし。 その空間が心地が良かったんだ。 奏でた曲に意識が研ぎ澄まされていく。 目を閉じても指が動く。 間違える事なんて、ない。 遠い遠い昔の自分がこの曲を作ったのではないのかと錯覚してしまう。 音楽に魂を乗り移らせて、 あたしはあたしの全てで 音楽を愛した。
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