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あぁ……覚えている。 まだ忘れていない。 音楽に夢中だったあの日々を。ピアノを愛したあの時間を。 目の前にある古いグランドピアノがとても愛しく思えた。 ピアノを見た瞬間、あの日々が帰ってきてしまったんだ。 あたしの指が、鍵盤の重さを 再び感じたいと泣き出して。 薬指が鍵盤を、叩いた。 ポーンと静寂を破る様に響いたファの音。 頭の中で紡がれていた音が、耳に届く。 音がする。 耳に心臓に突き刺さるような 聡明で真っ直ぐな―――…… …………音がする。 今日はこれで、満足。 あたしはピアノの蓋を閉じて、それを撫でて、部屋を出た。 また来るね そう言い残して。
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