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今にも降り出しそうな空を見て。
折り畳み傘。持ってたっけ?
その場に立ち止まり、鞄の中を確認していると、ポンと肩を叩かれた。
「おつかれ」
「お疲れって…」
振り向くと、真瀬侑成。
彼はやっぱり微笑んでいる。
「帰んねぇの?」
「帰る。でも、雨降りそうだし、傘あったかなって」
「降ってねーじゃん」
「でも、曇ってる」
「曇ってるけど、降ってない。そういう時は」
「ひゃあ!」
ギュッと手首を掴まれた。
「走れ!」
言って、彼があたしを連れて走り出した。
制服の白い開襟シャツが風邪を含んで大きく揺れる。
大きな雲は太陽を隠して。肌寒い空気に薄暗い天気なのに
なぜかあたしの前を走る彼は眩しくて、
眩しくて。
息が止まりそうになる。
あたしは彼に手をとられ、もつれそうな足を何とか動かしながら、目の前にある広い背中を必死に追いかけた。
女の子の中じゃ走りは速い方だと思う。
それでも、彼の走りはやっぱり早くて
このまま走り続けるなんて不可能だ。
どう考えてもこのペースで着いて行けるわけがない。
真瀬は走る事を喜んでいるようにも見えるし。
バカだから、あたしの存在を忘れているのかもしれない。
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