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部屋に入り、窓の近くまで歩く。
閉じた窓から運動部のこもった練習声が聞こえてくる。
少しだけ窓を開けると、カーテンがパタパタと揺れた。
あたしはカーテンのそばにある
グランドピアノの前に設置されてある椅子に腰をかける。
埃の被った古いグランドピアノ。
あたしはハンカチを取り出して、鍵盤蓋を撫でるように拭いた。
艶のある黒が現れて、ホッとする。
鍵穴が潰れていて鍵がなくてもあいてしまう鍵盤蓋をゆっくりと開けると、白鍵と黒鍵が目に飛び込んできた。
あたしは規則正しく並べられた鍵盤の上に、そっと指を置く。
譜面台には何も置かれていないのに、
目が楽譜を覚えてる。
指が動きを覚えてる。
鍵盤の上で踊るように遊びだした指にあえて力を込める事はなく
あたしは音はならさず、
頭の中で曲を奏でた。
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