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「ねぇ、遥斗」
「何」
何?って言ってくれてるのに、全然こちらを見ない遥斗。
まぁ……これが遥斗の通常運転だけど。
電車の小窓から見えるのは、住宅街。
その上に広がるのは麗らかな春の空。
小さく切り取られた春の空を見上げている遥斗の横顔を見ながら、こんな風に一緒に電車に乗るなんて、どれくらいぶりだろう……と記憶を辿る。
けれど、どの記憶もその答えに当てはまらない。
二人きりで電車に乗った事なんて……
あれ? もしかして、ないかもしれない。
まぁ、それもそうだよね。
あたしたち姉弟の高校は別だから。
(中学は家のそばにあるから)
あたしの高校は、自宅の最寄駅から5つ目。
遥斗の高校は乗り換えも含め、9つ先の駅だ。
あたしよりも学校の遠い遥斗は、人混みが嫌いという事も手伝って、普段はもっと早い時間の電車に乗っている。
朝練もあるからかなり早かったと思う。
あたしはふと心配になって、聞いた。
「遥斗、この時間で大丈夫なの?」
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