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5 #2
言って、ソフトクリームを下げようとした時だった。
彼の体が傾いて、あたしの体に大きな影がかかる。
彼の髪があたしの右手にあたって。
その時、気づいた。
真瀬はあたしが持っているソフトクリームを食べているって。
「あ…」
「あ……あめぇっ」
言って、彼がバッと顔を上げた。
その瞬間、至近距離で視線がぶつかる。
体勢を整えた彼の色素の薄い茶色の瞳の中に、小さくなったあたしが映っている。
正面から覗き込まれて……トクンと胸が鳴る。
「……っ」
鼓動が発声の邪魔をする。
心臓がキュッと締め付けられて息苦しいのに……
それを心地いいと思ってしまうのは、なぜだろう。
早くこの時間が終わってほしいと思うのに
……まだ終わりたくない。
あたしの中の誰かが、そう言った気がした。
波音が聞こえる。
視線が逸らせない。
「名瀬……」
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