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「俺、一度も目、合わせてもらえなかったわ」
小さくなる遥斗の背中を見ながら、隣に立つ真瀬が言う。
「ごめんね。ウチの弟、ちょっと頑固でさ」
「イヤ別に。あれくらい普通じゃね?」
「そう……かな」
普通じゃないよ……と思いながら、真瀬の横顔を見た。
「俺も妹いるし、わかるかも。手のかかる妹はいつだって心配」
真瀬は、遥斗が歩いた道筋を目で辿りながら言った。
そうなんだ……。真瀬、妹さんいるんだ……。
何かを思い出したかのような優しい表情をした真瀬が“お兄ちゃん”に見えた。
守る物がある人
そう思うだけで、真瀬がいつもよりも頼もしく見える。
…………と、そこまで考えて気づいた。
「あたし、遥斗の姉なんだけど」
「え?!マジか!!」
「嘘つかないよ。どう見てもあたしの方がお姉さんでしょ」
「どう見てもって。クッ。ははは!」
真瀬はお腹を抱えて笑いだす。
その姿に無性に腹が立って、言い返した。
「なんで笑うの!」
「だって、お前……」
目尻に涙を溜めて笑う真瀬。
真瀬の言いたい事が伝わってしまった。
……どうせ、遥斗の方がしっかりしてるって言いたいんでしょ。
言われ慣れてるつーの。
「笑い過ぎだから!バカ真瀬!!」
笑い声と叫び声があたりに響いていた。
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