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「ん? 何も?」
そう言って、彼が鍵盤蓋を静かに開ける。
すると黒鍵と白鍵が出てきた。
彼は黒鍵に指を乗せ、右手に力を加える。
ポーンと音楽室に響くのは半音高いレの色。
その後、左手も動かし始める。
彼が紡ぎだした曲は
「ベタだから」
「下手ってか」
「違うよ。ベタ」
猫ふんじゃったの曲だった。
右手と左手を使って弾く簡単な楽曲。
「お前にまで下手って言われたのかと思った」
真瀬が笑いながら奏でる「猫ふんじゃった」は、
特別うまいとは思わなかったけど、羨ましいとは思った。
真瀬が口角を上げながら、何度も猫を踏みつけていく。
うまくはない。ちょっと雑かな……第一印象そう思ったピアノだった。
でも違う、これは真瀬の弾き方だ。
そう思った時には、真瀬の音に吸い込まれていく自分がいた。
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