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*** 渓流の中、船は進んでいく。 船頭さんが舵をとってくれて、あたしたちは船に乗っているだけ。 初めての川下りを楽しんでいた。 最初は、川下りなんて嫌だなって思っていたけれど 乗ってみれば、アミューズメントパークのアトラクションみたいで楽しい。 人工的に作られたアトラクションと違う所は、自然が相手だという所。 日によって変わる天候、水かさ、川の流れなどに注意しながら、舵取りさんは船を操っていく。 「たまに落ちる人もいますからー。」 なんて、船をこぎながら船頭さんが言うから 「ほんとかな?」 つい真瀬に聞いてしまった。 「嘘だろ」 そう答えた後、真瀬は唇を結んだまま優しく微笑んだ。 今、真瀬から放たれる空気の温度は、以前と一緒。 夕暮れ時の音楽室と、その日の帰り道で見た 色をなくした瞳も 言葉をなくした重い空気も どこにもないように思えた。 向けられる目がいつものように優しい…と思うのは、あたしの 願望なのかもしれない。
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