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「何してんの? 名瀬」
ふざけるように…
からかう様に…
放つ真瀬の声はいつも通り。何も変わらない。
「あぁ…これ?」
蹲るあたしを見下ろした彼は、その場にしゃがみこみ、右足に絡まる木の根を取ってくれている。
その声も
指先も
クルンと跳ねる襟足も
右肩も
あたしの視界に入る全てが
他の誰かのものだと思った瞬間――……
「取れた。……え」
……涙が止まらなくなってしまった。
「なんで…泣いてる?」
枯葉の上に落ちた雫が見えたのか、髪で隠していたはずの横顔が見えたのかはわからない。
けれど、涙に気付いた彼は、覗き込むようにしてあたしを見る。
その距離は多分10センチもなかった。
あたしは今、真瀬の作り出す空気の中にいる。
居心地のよい大好きな空間に……。
あたしはそっと目を上げる。
そこには、心配そうにあたしを見つめる真瀬がいた。
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