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「よっしゃ」
侑成はその場に立ち上がり、ぐーと伸びをして
「じゃあ、行ってくる」
傍に置いてあったエナメルバックを肩にかけて、無防備な笑顔を見せた。
開かれた玄関から夏の光が斜めに差し込んでくる。
眩しすぎて、目を細めた。
「俺が帰ってくるまで、誰もいれるなよ」
一歩動いて振り返った彼のお陰で光は遮断され、また彼の顔がよく見える。
「うん。わかった」
つられる様に微笑むと、彼はあたしの頭をポンと撫でて
「行ってきます」
光の中へ消えていく。
あたしは慌てて光の中へ駈け込んで、後ろ姿を見送った。
「侑成―!いってらっしゃーい! 気を付けてねー!
急いでまた誰かとぶつかったらダメだからねー!」
「うっせー!」
言いながら小さく手をあげた彼の姿が見えなくなるまで見送る。
彼が角を曲がった。
ささやかな幸せの時間が終わってしまい、家へ戻ろうと踵を返した時だった。
―――――『気を付けていくのよー。ちょっとくらい遅れたっていいんだからねー』
白い光の中から、誰かの声が聞こえた気がした。
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