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あたしは立ち上がり、彼に近づいた。 「ヘッタだなー。全然弾けなかったわ」 そう言って、恥ずかしそうに笑う彼の右手を取って両手で包む。 「ううん、すごかったよ」 「お世辞でも嬉しいな、サンキュ」 「お世辞なんかじゃない。ホントにすごかった……」 彼が弾いた曲は、あたしには弾けない曲だ。 どれだけ練習しても、テクニックだけでは弾けない。 長い指と大きな掌を持つ男の人のために用意された曲から紡ぎだされた音色は、熱く深くあたしの胸の内を焦がした。 こんな音を あたしは初めて聞いたんだ――。 震えている、今も。 曲に込めた彼の想いが突き刺さる様に伝わっている。 「聞かせてくれて……ありがとう……」 「大げさだな。 いつもウミがしてくれてる事だろ?」 「……そっか」 「そうだよ」
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