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あぁ……本当に全部、あの時と一緒だ。
谷底へ落ちる前の映像と。
切り立った山壁にいるあたしの手は、真瀬の手と繋がっている。
二年後の大人になった彼と。
目に映る彼の腕は伸び、顔つきは男らしくなっていた。
肩幅も広くて、手は大きくて――
あぁ、侑成。
と思った。
「名瀬……絶対、離すなよ」
先ほど聞いていた声よりもずっと低い声が聞こえる。
見上げると彼の額から冷や汗が落ちてくる。
左手で木に捕まり、右手であたしを支える真瀬。
あたしたちの手は互いに滑りやすくなっていて、ズルズルと手が下へと下がっていく。
あたしは静かに彼を見つめる。
谷底から強風が吹きあれて。
「くそっ」
真瀬の視界を奪う。
「力、入れろ!」
そう言われても左手に力は加えられない。
「ごめんね…」
「謝んじゃねー」
「ありがと」
「礼なんて言うな。わかった、もう離すな」
「……」
「絶対、助ける」
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