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彼の中に、一回り小さい黒髪の少年が見えた。
それは、先ほどまで一緒にいた侑成だ。
中学三年生の彼があたしの瞳にはっきりと映っている。
視界が涙で滲んでいくと、そこに二人の影が見えた。
それは、中学生の侑成と
高校生の真瀬だ。
あたしは、二人の彼を見つめて言った。
「あたし、今……行ってきた……」
「え」
「全部見てきた。思い出したよ、侑成――」
震えた声を彼に投げかける。
あたしは彼の左頬に右手をあてて言った。
「大丈夫だった? ごめんね。あたしのせいで」
いっぱいいっぱい、怪我をさせた…
「俺は大丈夫。なんともなかったから。でも、……俺は、ウミの事……守りきれなくて、ごめん」
ううんと首を横に振る。
手が落ちていく。
すると彼は、あたしの事を真っ直ぐに見つめて、言った。
「次は絶対に守るって、決めてた」
「……」
「何があっても」
迷いなく、谷に向かって飛んだ彼の姿を思い出す。
その姿は
青空の真ん中
夏の真ん中で
飛び上がる彼と重なって、見えた――
何も言えず、ただ涙を流すあたしの頬を包み、
親指の腹で涙を拭いて、彼が言った。
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