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「え~っと、その……」
思考の時間を稼いでも焼け石に水だった。
そのとき、ふと高坂明理がルーズリーフをさりげなくこちらへと見せているのに気付いた。
ルーズリーフには大きく『9』という字が書かれている。
「……9?」
「む、正解だ。春休みも復習していたようだな」
数学教師は満足げにそう言って、次の問題の解説に移る。
安堵にため息をついて、高坂明理の方をちらりと見る。
彼女はどこか不安げな表情でこちらを見ている。
そして、ルーズリーフを一枚、俺の方へと渡す。
『これで秘密にしてくれる?』
そこにはそんな文章が書かれていた。
俺は呆れてため息をついた。
『放課後に話そう。校舎裏で』
そうルーズリーフに書いて、高坂明理に返す。
しばらく彼女はルーズリーフの文面を見つめていたが、納得したようにルーズリーフを引き出しの中に入れた。
そのとき、ちょうど授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
律儀なことに、高坂明理は放課後になるまで一切俺に話しかけてこなかった。
ルーズリーフによる筆談なんて、証拠が残るコミュニケーション手段を使われるよりはいい。
とにかくこいつの誤解を解かないと秘密にできるものもできない。
俺は疲労感にため息をついた。
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