第3話 猫殺しの少女

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「え~っと、その……」  思考の時間を稼いでも焼け石に水だった。  そのとき、ふと高坂明理がルーズリーフをさりげなくこちらへと見せているのに気付いた。  ルーズリーフには大きく『9』という字が書かれている。 「……9?」  「む、正解だ。春休みも復習していたようだな」  数学教師は満足げにそう言って、次の問題の解説に移る。  安堵にため息をついて、高坂明理の方をちらりと見る。  彼女はどこか不安げな表情でこちらを見ている。  そして、ルーズリーフを一枚、俺の方へと渡す。 『これで秘密にしてくれる?』  そこにはそんな文章が書かれていた。  俺は呆れてため息をついた。 『放課後に話そう。校舎裏で』  そうルーズリーフに書いて、高坂明理に返す。  しばらく彼女はルーズリーフの文面を見つめていたが、納得したようにルーズリーフを引き出しの中に入れた。  そのとき、ちょうど授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。  律儀なことに、高坂明理は放課後になるまで一切俺に話しかけてこなかった。  ルーズリーフによる筆談なんて、証拠が残るコミュニケーション手段を使われるよりはいい。  とにかくこいつの誤解を解かないと秘密にできるものもできない。  俺は疲労感にため息をついた。
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