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それからというもの、毎朝欠かさずに、 薔薇の蕾が届きましたわね。 私たちよりも早く登校するのは、 さぞや大変だったことでしょう。 貴女は、宵っ張りの生活を続けてらしたそうですから、 早起きを続けることは、普通の人以上に、 お辛かったと思いますわ。 本当に、ご苦労様。 一輪の薔薇の蕾が、二本、三本と増えてゆき、 確か、二十本になろうという頃合いだったかしら。 あの子が、指に棘を刺したのは。 白く細い指先から、 ぷくりと朱い液体が漏れ出した時、 私は、思わず、その指を口に含みましたわね。 咄嗟にとった行動で、 そこに意味などなかったのだけれど…… いえ、本当は、あの子の制服が汚れてしまうことが気になって、反射的に動いてしまったのだけれど…… その時のこと、覚えてらっしゃる? 私が、そっと、慈しむように、 あの子の指先を舐める間、 貴女はじっと、私たちを見ていらしたでしょう? 時間の止まったような、朝の教室、 指を這う舌の感触に、 あの子が思わず小さな声を漏らしたのも、 貴女は聞き逃さなかったはずですわ。 その次の日から、 薔薇の蕾は置かれなくなりました。
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