離してくれない

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ご飯を食べた後、お義母さんはあちこち掃除をしてくれ、乾いた洗濯物を(いつの間にか干してくれてあったようだ)ミカとマサルと一緒に取り込んでたたんでくれた。 「これはあなた達のお仕事だからね。」 そう言って帰っていった。 「おばあちゃんありがとう!」 三人共玄関から出てお義母さんの車が見えなくなるまで手を振った。 そして… 玄関に急いで飛び込むと 「でめちゃん!」 「お母さん!」と一斉に水槽の前で騒ぎ始めた。 「はいはい」いつもの返事だ。 「良かった!いた!」マサルが喜んだ。 「まだいるわよ」 そう言って金魚はゆらゆらと揺れた。 さて、とー せっかちな金魚は話し始めるー。 今日はミカに特に聞いて欲しいかな、と前置きして。簡単な献立のアプリやレシピの置いてある場所、安いスーパーや薬局やら…ミカは神妙な顔をしてメモ用紙に一生懸命書きながら聞いている。 俺のわからないことにもわなんでも答えてくれた。 お陰で 俺は公共料金の通帳からゴミの日までも把握した。 毎日玄関を開けて「ただいま」と声をかけると 「おかえり」と言ってくれるのが皆嬉しかった。 一週間ほど経った頃だろうか、 仕事から帰ってきた俺に向かってでめちゃん…典子に話しかけられた。 「一通りの事は伝えられたし、私も気が済んだの。 だから上に上がろうかと思って。」 衝撃だった。確かにいつまでも金魚でいるわけにはいかないだろう。 ーしかしー 子供には?の問いに 「私が話すわ」と金魚が小刻みに揺れた。 次の日の夕方、子供達にー このままここにいられない事。 上に上っても皆のところにも自由に行けること。 いつも見守ってる事。 「このままここにいるとね、」 「どんどん記憶がなくなって地縛霊になっちゃうの」 「ジバクレイって何?」マサルが聞き返す。 「ずっとそこにいて成仏できない霊のことよ」 「ジョウブツって何?」 「天国に行くことよ。だからもう行かないとね」
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