夕暮れの刻

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今日は少し暑かったね、と独り言のように呟いて 麻里子は左手に抱えてきたお花をそっと歩道橋の下の地面に置いた。 今日の花は小さくて白いスプレー菊達と二本のピンクのスイートピーだ。 いつも近所のスーパーで買って自分で小さくまとめてくる。 なるべくお金のかからないように。 でも寂しい花束を作るのは嫌だった。 手を合わせて目を閉じるとくるくる回っていた子供の姿を思い出す。 ケイ君は女の子みたいな花は嫌だ!って言いたいよね。 ふとスイートピーを見てそう思いクスッと笑う。 ああ、文句でいいから聞きたいよ。 あなたの声を。 夕方の生ぬるい空気の中で合わせた手の上に涙がポトリと落ちた。 「見た?」 「うん、見た」 小さな声が2つ。 交差点の赤信号でちょうど止まったバスの中で女の子の一人が窓に顔をくっつけ、もう一人も横から外を眺めていた。 「いたね」 「うん…かわいそうだね」 「うん」お互いを見て頷いて。 そして二人はまた外に目をやった。 もうじき暗くなる。 「お姉ちゃん達どうしたの?」 彼女達の横に座ってた弟と母親がこちらに顔を向ける。 小さい彼は座席から顔だけのぞかせてお姉ちゃん達をじっと見てる。 「なんでもないよ。」とニッコリしてやると安心したのか窓に顔を向けた。 母親はそんな三人を代わる代わる眺めている。 桃色に輝いていた夕焼けもグレイに染まり始めていた。
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