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「ナギサが……僕と同じ養護施設に……」
「イサナ君がいた頃に、ナギサ君もいたはずですよ」
長田所長の言葉を聞いて、毅然としているナギサを振り返った。
そのナギサが前を見据えたまま、ズイッと歩を進める。
「今の私は死番の助死師だ。迷いし魂を死送るのが使命」
「ええ。私が許可しますから、思う存分にやってください。これからは君たち若い世代が活躍する時代です。
老兵は去るのみですが、若い者を援護するのも務めですからね」
「あ、ありがとうございます、長田所長ッ」
すべてを託してくれた先人に、頭を下げて謝辞を告げるしかなかった。
「2人とも、頼みますよ」
長田所長がうなずいた。
「ユキナちゃん、ここで待っててね。必ずミヤビちゃんを助けて戻るからね」
僕はひざまづいて、不安に瞳を曇らすミヤビちゃんに告げた。
小さな少女は不安を払拭するように、強い心で笑顔をつくる。
その小さな手に握られているのは、ネコのマークがある名刺だった。
「ユキナ、約束する。お前の友達を救うと」
ナギサもひざまづいてユキナちゃんを抱きしめた。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ユキナ待ってるから!」
顔を上げた少女の瞳には、もう不安の色は見当たらなかった。
「イサナ、行くぞ」
「ナギサ、任せて」
僕とナギサは立ち上がり、施設の職員が見守る部屋に足を進めた。
職員たちは皆一様に顔を強張らせ、恐怖に身も心もすくんでいる様子である。
その怯えた職員たちが、ナギサを前にすると気圧されるように道をあけた。
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