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そして閉ざされた扉の前に立つ。
ワルキューレが「シャーッ」と鳴いて全身の毛を逆立たせる。
閉ざされていてなお、扉から吹きつける異様な空気に圧倒された。
まるで空気が固体化したような、濃厚な気配が全身の毛穴から侵入してくる。
だがナギサが躊躇することなく、霊気がもれる扉を押し開いた。
「な、何だこれは……ッ!?」
僕は驚愕のあまり声を失った。
子どもたちが暮らす相部屋の内部は、身の毛がよだつような騒乱の嵐が吹き荒れていた。
部屋の四隅の壁が、誰もいないのにドンドンと叩く音がする。
部屋に並んだ机やベッドが、地震でもないのにガタガタと揺れている。
机に置かれた本や文房具が、風もないのにパタパタと宙を舞っている。
天井から吊された照明が、停電でもないのにパチパチと点滅を繰り返している。
(まるで透明人間の乱痴気騒ぎだッ)
その奥で1人の少女が、背を向けてベッドに座っていた。
その背中からシクシクとすすり泣く声がする。
その少女はミヤビちゃんであろうか。
「……誰か……お願い……助けて……」
救いを求める声が聞こえる。
「私は死番の助死師だ」
ナギサが告げるやいなや、片方の腕を水平に伸ばした。
その伸ばした白い指先に、ボウッと炎色の焔が灯る。
「お前は何者だ?」
凜とした声で問うと、もう片方の腕も広げるように伸ばした。
その掌の上に白い花を模した蝋燭がある。
冥府の花アスポデロスを溶かしてつくった、エリュシオンの燭香である。
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