第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

11/15
前へ
/184ページ
次へ
 そして閉ざされた扉の前に立つ。  ワルキューレが「シャーッ」と鳴いて全身の毛を逆立たせる。  閉ざされていてなお、扉から吹きつける異様な空気に圧倒された。  まるで空気が固体化したような、濃厚な気配が全身の毛穴から侵入してくる。  だがナギサが躊躇することなく、霊気がもれる扉を押し開いた。 「な、何だこれは……ッ!?」  僕は驚愕のあまり声を失った。  子どもたちが暮らす相部屋の内部は、身の毛がよだつような騒乱の嵐が吹き荒れていた。  部屋の四隅の壁が、誰もいないのにドンドンと叩く音がする。  部屋に並んだ机やベッドが、地震でもないのにガタガタと揺れている。  机に置かれた本や文房具が、風もないのにパタパタと宙を舞っている。  天井から吊された照明が、停電でもないのにパチパチと点滅を繰り返している。 (まるで透明人間の乱痴気騒ぎだッ)  その奥で1人の少女が、背を向けてベッドに座っていた。  その背中からシクシクとすすり泣く声がする。  その少女はミヤビちゃんであろうか。 「……誰か……お願い……助けて……」  救いを求める声が聞こえる。 「私は死番の助死師だ」  ナギサが告げるやいなや、片方の腕を水平に伸ばした。  その伸ばした白い指先に、ボウッと炎色の焔が灯る。 「お前は何者だ?」  凜とした声で問うと、もう片方の腕も広げるように伸ばした。  その掌の上に白い花を模した蝋燭がある。  冥府の花アスポデロスを溶かしてつくった、エリュシオンの燭香である。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加