第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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 そのエリュシオンの燭香に火を灯すと、甘く蕩けるような香りが漂い始めた。  死者を欺く死送りの芳香である。  死送りの術式が開始された。  たゆたう香りが少女に届くと、シクシクとすすり泣く声がピタリと止まる。 「なぜ……誰も助けてくれないの……ぼくは……何も悪いことしてないのに」  虐げられし者が生者を呪うかのごとく恨めしい声がした。 (ぼく、と言ったな。やはりミヤビちゃんに取り憑いているのは、お兄ちゃんであるマサオキ君の霊だ)  僕は確信していると、背を向ける少女に異変が起こった。  身動ぎもしないのに頭の髪が、ぞわぞわと蟲が這い回るように蠢いている。  ぶぁじゅ!──突然にはじけるような音が湧いた。  少女の髪が頭の内側から押されるように盛り上がったのだ。  その盛り上がった瘤は、まるで人の頭のように見える。 「苦しい……楽になりたい……死なせて……」  人の頭のような瘤が口を開閉させて呻いた。  まるで暗く光ささぬ牢獄に閉じこめられた、罪深き囚人の嘆きのように聞こえる。 「死なせてやるから、今すぐその娘から離れろ」  ナギサが硬い声で命ずるが、 「ぼくがこの身体をもらうんだっ!」  頭の瘤が怒りに満ちた声で叫んだ。  その途端、宙を舞っていた三角定規がナギサを襲う。 「危ないナギサ!」  ナギサを庇うように立ちはだかると、襲ってきた定規がこめかみにぶつかった。 「イサナ、大丈夫かっ!?」  ナギサが動揺したように口走った。 「だ、大丈夫だから。僕は平気だから」
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