第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

14/15
前へ
/184ページ
次へ
「ぼくだけ、どうしてこんな目に遭わないといけないの。何も悪いことしてないのに」 「ミヤビの身体を乗っ取ろうとしている」 「だって、どこにも行くところがないからだよ。他に行くところがないからだよ」 「だからといって、生者を蔑ろにするのは許せない」 「不公平だよ。なぜ生きている人間が許されるの?」 「この世界は生者が築くものだからだ。その役目を終えて死した者には、次に行く世界がある」 「ぼくには見えない。ぼくには行くところがない。ぼくだけどうしてっ!」  頭の人面瘤が慟哭するように叫んだ。  頭の内側で大きく口を開くたびに、頭の皮膚が裂けて髪からポタポタと血が垂れる。 「痛いよ、痛いよ、助けて!」  ミヤビちゃんが頭の激痛に耐えかねて泣き叫ぶ。 「お母さん、お母さん、助けて、どこにいるの?」  ミヤビちゃんの泣き声に重なるように、頭の人面瘤が皮膚を破って泣き叫んだ。  どんなにマサオキ君の霊が呼んでも、3年前に母親は投身自殺しているのだ。  残念ながら母親に会わせることはできない。  もしそれを成すのなら、死送る助死師のナギサにしか叶わないだろう。 「貴様のいる場所はここではない。光さす場所へ死送ってやる」  ナギサが宣告するが、 「いやだっ、この身体から離れたくないっ。独りぼっちはもう嫌なんだ、離れない、離れないっ!」  頭の人面瘤が悲痛な声で抗った。  なぜ、これほど子どもが苦しまなければならないのか。  何もできない自分がやるせなくて歯痒くて、胸が締めつけられるように軋んだ。 「ナギサ、待ってくれッ!」  我知らず叫んでいた。 「イサナ、どうしたのだ?」 「僕に、僕に話をさせてくれないか」
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加