第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース3 ─

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「この魂は分別のない悪霊だ。話し合いが通じる相手ではないぞ」 「でも、それでも僕の言葉を聞いてほしいんだッ」  僕は懇願すると、ナギサが渋々と身を引いた。  そして皮膚を破り血を垂れ流す人面瘤に語りかける。 「君が寂しがっているのに、大人である僕は何もしてあげられない」  机に置かれた本が飛んできて、僕の横面にぶつかった。 「イ、イサナ!?」と、ナギサが動揺した声をもらす。 「君たちがこんなに苦しんでいるのに、僕はその苦しみをすくい取ってあげられないんだ」  今度は電気スタンドが飛び、またこめかみにぶつかって血がしぶいた。 「助けてやれない。だから、僕の身体を使ってくれ。この身体なら自由に使って構わないよ」 「イ、イサナ、何を言っているんだっ!?」 「マサオキ君の辛さや苦しみは全部、僕に吐きだして構わないよ」  血がしたたるのもそのままに、手を差し伸べてマサオキ君に近づく。  すると、人面瘤に変化が起こった。  凍てついた氷河が溶けるように、頭の瘤が見るみる萎んでいくではないか。 「暗くて誰もいなかったのに……温かい光を感じる。その光の向こうで声がする。ぼくを呼んでる声が聞こえるよ」  人面瘤が打ち震える声で言った。 「その光さす方向に歩いて行くんだ。お前は1人じゃない。必ず見守ってくれる存在がいるのだ」  ナギサが厳かな声で告げると、 「ありがとう。ぼくはもう行くね」  人面瘤が消失する間際に言った。 「ぼくの名前はマサオキじゃないよ。それと、白い顔をした黒い悪魔がやって来るよ。気をつけて」  そんな言葉を言い残すと、迷える霊魂が霧散するように消えた気配がする。  そうして死送りの術式が終了した。
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