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「この魂は分別のない悪霊だ。話し合いが通じる相手ではないぞ」
「でも、それでも僕の言葉を聞いてほしいんだッ」
僕は懇願すると、ナギサが渋々と身を引いた。
そして皮膚を破り血を垂れ流す人面瘤に語りかける。
「君が寂しがっているのに、大人である僕は何もしてあげられない」
机に置かれた本が飛んできて、僕の横面にぶつかった。
「イ、イサナ!?」と、ナギサが動揺した声をもらす。
「君たちがこんなに苦しんでいるのに、僕はその苦しみをすくい取ってあげられないんだ」
今度は電気スタンドが飛び、またこめかみにぶつかって血がしぶいた。
「助けてやれない。だから、僕の身体を使ってくれ。この身体なら自由に使って構わないよ」
「イ、イサナ、何を言っているんだっ!?」
「マサオキ君の辛さや苦しみは全部、僕に吐きだして構わないよ」
血がしたたるのもそのままに、手を差し伸べてマサオキ君に近づく。
すると、人面瘤に変化が起こった。
凍てついた氷河が溶けるように、頭の瘤が見るみる萎んでいくではないか。
「暗くて誰もいなかったのに……温かい光を感じる。その光の向こうで声がする。ぼくを呼んでる声が聞こえるよ」
人面瘤が打ち震える声で言った。
「その光さす方向に歩いて行くんだ。お前は1人じゃない。必ず見守ってくれる存在がいるのだ」
ナギサが厳かな声で告げると、
「ありがとう。ぼくはもう行くね」
人面瘤が消失する間際に言った。
「ぼくの名前はマサオキじゃないよ。それと、白い顔をした黒い悪魔がやって来るよ。気をつけて」
そんな言葉を言い残すと、迷える霊魂が霧散するように消えた気配がする。
そうして死送りの術式が終了した。
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