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第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─
「ミヤビちゃんっ!」
部屋の外にいたユキナちゃんが駆けてきた。
やっと解放されたミヤビちゃんがユキナちゃんと抱き合う。
さきほど叱責していた保育士も、ミヤビちゃんの頭の怪我を診ている。
他の職員は非日常の出来事にまだ鼻白んだ様子で、僕たちを遠巻きに眺めていた。
騒乱が終息した部屋には、まだアスポデロスがかすかに残んの香りを留めている。
でも僕もナギサも、周りの視線を気にしている場合ではなかった。
「あの霊はマサオキ君じゃなかった……!? ナギサ、一体どういうことなんだいッ?」
僕は茫然としながら問い質すも、
「わからない……」
ナギサが困惑した表情でつぶやくばかりであった。
(それに白い顔の黒い悪魔とは、一体誰のことなのだろうか)
一体全体わからないことだらけである。
事件は解決したはずなのに、ますます謎は混迷を深めていた。
「あの……ありがとうございました」
ミヤビちゃんの傷を診ていた保育士が、恐縮しきりで頭を下げた。
「えっ、いや、いいんだよ」
「あんな失礼なことを言って、本当に申し訳ありませんでした」
「そんなに謝らなくても大丈夫だから。でも子どもが無事で良かったです本当に」
若いのに良くできた保育士さんだな。
やはり長田所長は良い人材をそろえていると、ひどく感心していると、
「イサナ、気づいているか?」
ナギサが目を細めながら訊いた。
「何のことだい?」
「まだアンジェラスの弔鐘が鳴り止まない」
そう告げられて、ハッとしてワルキューレを振り返った。
その首に吊された鐘が、たしかにまだ杳杳とだが鳴っている。
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