第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─

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「アンジェラスの弔鐘は、闇追い高鳴る葬いの鐘だ」 「まだ……死の御告げは……終わっていないのか……」  鐘の残響に心惑わせながら、それでもやっと言葉を紡がせた。  まだ死の匂いを振り切れていないのか。  その瞬間、止まっていた時を戻すかのように胸の携帯が鳴った。 「イサナ君?」 「は、はい猫屋田です。ああ、雉子さんか」  電話の向こうの声は相談所の雉子さんだった。 「イサナ君、美蝶子先輩を知らないですか?」 「えっ、相談所に戻っているんじゃないの」 「それがまだ帰らないんです。携帯に掛けても繋がらなくて」  電話の向こうの雉子さんが焦れた声で告げた。 (そんな馬鹿な……。美蝶子さんは立ち入り調査の許可を頼みに戻っているんじゃなかったのか!?) 「イサナ君、先輩がどこに行ったか知ってますか?」 「ごめん雉子さん、また掛け直すから」  通話を途中で終わらせると、混乱する頭を掻いて思考を紡いだ。 (まさか……美蝶子さんは赤海家に1人で行ったのでは……)  理恵花さんが憤怒の眼でハンドバッグをまさぐる映像が、ふいに脳裡に甦った。  鳴り止まぬアンジェラスの弔鐘が、焦燥感に苛まれる胸を騒がせる。 「イサナ、どうしたのだ?」  ナギサが訊いた。  おそらくは血の気を失っているだろう僕の顔を、訝しげに凝視している。 「美蝶子さんが……戻っていないんだ……」 「美蝶子が?」  アンジェラスの弔鐘が鳴り止まない。  死を御告げる鐘が教えている。まだ死から逃れていないのだと。 「ナギサ、付き合ってくれ」 「どこへ?」 「双子の姉妹がいる赤海家に!」  僕はナギサの手を握りながら叫んでいた。
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