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ナギサと共に赤海家に辿り着くと、脇に相談所の公用車が駐まっていた。
やはり美蝶子さんは赤海家に来ているんだ。
赤海邸は灯ともしごろなのに、照明が点いていない。
深として暗く、人の気配がなかった。
「監禁されているかもしれない妹のアケミを救出すればいいのだな」
ナギサが声をひそませて言った。
ここに来る道すがら、姉のアエカちゃんと母親の理恵花さんとの経緯を話してある。
「うん。僕は美蝶子さんを探すから、ナギサはその間にアケミちゃんを保護してほしい。
もし理恵花さんと遭遇しても、僕が何とか話を誤魔化すからね」
「了解した」
ナギサがうなずく。
念のためインターホンを押すが、いくら待っても返事がない。
(理恵花さんは家を留守にしがちだと言っていたが、姉のアエカちゃんもいないのだろうか)
恐るおそるドアノブに手を掛けると、ギイッと音をたててドアが開いた。
「ごめんください、相談所の猫屋田です」
挨拶するが、むろん返事はない。
玄関は薄暗く、その奥に続く廊下までも暗然としている。
ふと視線を下にすると、たたきに見慣れたスエードのパンプスがあった。美蝶子さんのである。
(やはり美蝶子さんは家に上がっているのだ。何て無茶な人なんだ)
理恵花さんがハンドバッグから刃物を取りだす映像が、妄想となって脳裡に明滅する。
その妄想の理恵花さんは、半分が邪な笑みを浮かべ、もう半分は心ない無表情な顔をしていた。まるで悪魔のように。
思わず全身が総毛立つ。不吉な予感が止まらない。
こうなったら家に上がるしかなかった。
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