第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─

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「ナギサ、行くよ」  振り返らずに囁くと、後ろでうなずく気配がする。  小さな気配も付いてきた。黒猫のワルキューレだ。  その首に吊されたアンジェラスの弔鐘が、心なしか高く鳴っている気がする。  死が近いというのか。  理恵花さんが隠れているかもしれないので、気取られないように照明を点けないで進む。  薄暗いフローリングの廊下を足音を忍ばせて歩いた。  それでもギシッギシッと、踏む音がもれてしまう。  その音のたびに冷や汗が頬を伝った。  心臓がバクバクと鳴る音や、唾をゴクリと飲む音までが、深とした空気を伝って待ち構えている者に聴こえそうだ。 「イサナ、声がする」  ナギサが囁いた。  それで闇に聞き耳を立てると、 「──……猫屋田……」  僕にも声が聞こえた。  闇の向こうで呼ぶ、かぼそく消え入りそうな声だ。 「──……猫屋田……」  また声がした。  美蝶子さんか。それともアエカちゃんか。  さらに耳をそばだてると、 「──……猫屋田さん」  呼ぶ声が聞こえた。少女の声である。  アエカちゃんか。それともアケミちゃんであろうか。 「猫屋田さん、こっちです」  仄暗い廊下の端に、白くおぼろに見える少女が現れた。 「アエカです。こっちに来て」  アエカちゃんが手招きする。 「アエ──ッ!?」  声をあげようとした口が、突如として横から伸びた掌でふさがれる。 「猫屋田、大きな声を出すな」  美蝶子さんの囁き声が耳元でした。
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