第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─

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 恐怖で絶叫するのを腕を噛んで、必死に耐えているように見えるのだ。  その証拠に眼球の毛細血管が破れて、白目が真っ赤な血に濡れていた。 「……ひいぃ……ひいぃ……」  その白い相貌と血に濡れた眼のコントラストが、身の毛もよだつほど怖い。 「……アケミちゃん、怖がらなくていいよ」  穏やかな口調で言うも、語尾が震えるのを隠せなかった。  アケミちゃんがイヤイヤをするように左右に首を振る。 「……ひいぃ……ひいぃ……」  何をそんなに怯えているのだろうか。 「イサナ、この娘は生者ではない」  ナギサが燭香の焔を揺らしながら言った。 「な、何を言ってるのナギサ?」 「この娘は虐げられ死した霊魂だ。それも亡くなってから月日が経っている」  ナギサが断言した。 (虐げられ死した霊魂……月日が経っている……アケミちゃんが?)  まるで意味がわからなかった。  先日に廊下を歩く白い足を見たばかりである。  あれはアケミちゃんだったはずだ。  ふいに八分儀さんの言葉が脳裡に甦る。 “イサナ君、この数日の間に幽霊を見たかい?”  あのときすでにアケミちゃんは亡くなっていたのか。  僕はその霊を垣間見たというのか。 「そんな……馬鹿な……ありえないよッ」 「それはこの娘に訊けばわかることだ」  ナギサが小揺るぎもせずに、怯えるアケミちゃんと対峙した。 「……ひいぃ……ひいぃ……」  アケミちゃんがさらに怯えた様子で、激しく首を振りながら呻いている。 「何を怖れている。お前を縛るものは何だ?」 「……ひいぃ……」
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