第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─

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「もうお前を縛るものはない。訴えたいことがあるのなら話せ」  ナギサが告げる横で、 「ちょっと猫屋田、大丈夫なのかい?」  美蝶子さんが疑心の解けない表情で訊いた。 「大丈夫、きっと大丈夫ですから」  間髪入れずに答えたが、胸をにじませる不安は消えなかった。  違和感が拭えない。何かが変だと勘が囁くのだ。 (養護施設でも霊を死送ったじゃないか。きっとナギサなら霊を導いてくれるはず)  不安を払拭しようと努めるが、アケミちゃんの怯えた表情が焦燥感を煽った。 「虐げられ死した魂よ、その秘した言葉を晒せ」  ナギサが強く言うと、ようやくアケミちゃんが噛んだ腕を離した。 「……騙された……わたしは……」  その口は血に赤く濡れていた。 「……わたしは……閉じこめられていた……」  離した腕からも歯形にそって血がしたたる。 「……食べる物も与えられず……暗い部屋に閉じこめられた……」  血に濡れた大きな眼をカッと見開いて訴える。 「……わたしは騙された……妹のアケミに騙された……」  白い少女の霊が告げた。 「えッ!?」と、心ならずも声をあげてしまった。  妹のアケミに騙された、と聞こえた。 (すると、この少女は姉のアエカちゃんだというのか。では、本当のアケミちゃんは?)  僕は理恵花さんの傍らに佇む少女を見やった。 「嘘よっ、ここにいるのがアエカよ!」  理恵花さんが半怒半無で叫んだ。 「……ママは騙されたのよ……半側空間無視なのを利用されて……まんまとアケミに騙されたのよ」 「お前がアケミよ! この子は嘘ばかりつく悪魔なのよ!」 「悪魔はアケミよ……姉妹であるわたしを閉じこめて、この部屋で飢え死にさせたのだから」
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