第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─

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「嫌嫌嫌嫌あああぁぁぁぁ──!!」  理恵花さんが打ちひしがれたように絶叫した。  その物悲しい叫びに呼応するように、燭香の焔がゆらりと揺れる。  エリュシオンの燭香が尽きようとしていた。  もう死送りの術式が終息しようとしている。 「アエカの霊よ。ここはお前のいる場所ではない。憎しみの鎖を断ち切って、光さす方向へ行くがよい」  ナギサが告げると、アエカちゃんは首を振った。 「今となってはアケミの憎しみが理解できる。だけど1人で行くのは嫌。 1人は寂しい。誰にも忘れられるなんて嫌なの!」 「ならば私も一緒に行こう。だから、許してやれ」  ナギサがそう告げると、アエカちゃんの歯形が残る腕を握ろうとした。 「ナギサ、行ってはいけない!」  僕は慌てて駆け寄ろうとする。  すると、理恵花さんがその白い腕にすがろうとした。 「アエカっ──!!」  その途端、ふっとエリュシオンの燭香が消えた。  理恵花さんの手には、細い枯れ枝のように朽ちた腕があった。  それは餓死と孤独の恐怖から逃れるために自分で強く噛んだ、アエカちゃんのミイラ化した死体の腕だった。  そこには、どろどろに黒ずんだ茶褐色の便が垂れ流されたまま、 皮膚は枯れ木のようにかさかさに乾き骨の上に皮がくっついている状態で、 その顔には黒く穿った穴に眼球の残骸がある、 変わり果てた無残な死体が残されていた。 「アケミちゃん、君のしたことは許されることじゃない」  僕は重い声で告げると、少女が言葉少なに返す。 「わたしは心が半分欠けた悪魔。……猫屋田さん、あのときに言った言葉、嬉しかったです」  半悲半無の表情で嗚咽をもらしながら死体の側にうずくまる理恵花さんを、アケミちゃんが無心の凍った表情でいつまでも見ていた。
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