第2章 死骸とネコと、半心の悪魔 ─ ケース4 ─

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 母親は妹が餓死するかもしれないことが思考の隅にあったかもしれないが、あえて嫌なことを押しやってしまった。  その欠けた心を利用した妹のアケミが母親の半側空間無視を利用し、姉のアエカと入れ替わることによって復讐を成し遂げたのである。  こうして死送りの術式が終了した。  美蝶子さんが警察に通報したことにより、赤海理恵花さんは保護責任者遺棄致死罪で逮捕された。  むろん、双子姉妹の姉であるアエカちゃんを餓死させた容疑である。  それを謀った妹のアケミちゃんは、女性警察官に保護されて連れて行かれた。 「精神分析学者フロイトの“糸巻き”と“いないいない遊び”だよ」  美蝶子さんが言った。 「ある日フロイトが孫を観察していると、その子どもは母親が使っていた糸巻きを投げるときに“Fort(いないいない)”、引き戻すときに“Da(いた)”と言葉を発した。 フロイトはこれを、孫が母親を糸巻きに見立てて象徴的に殺害し、また復活させるタナトスの遊びだと解釈する。 あのアケミという子も同様に、姉の存在を“糸巻き”で偽り、“いないいない遊び”をしていたのさ」  そのアケミは、離婚した元夫が引き取ることになったという。  保護司による保護観察が付くと聞いたが、それも違う街でのことなので情報は秘密にされた。  その前に、マスコミによる児童虐待死の報道で規制されてしまったからだ。  ともすれば児童虐待事件を、猟奇的でセンセーショナルに過熱した報道をしがちである。 ネットの世界では、残された妹の実名まで詮索する者もいた。  当然、児童相談所も矢面に立たされた。  いくら僕が入所する前にアエカちゃんが死亡していたとはいえ、担当者であったことは免れない。
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